こまねりと練馬区とでタッグを組んで行う事業「ねりま協働ラボ」の始めの一歩、官民連携のトークセッション第四回目が開催されました。テーマは「発達支援」。
全部で七回開催予定の官民が膝をつき合わせて語りあうこのトークセッションも折り返しとなりました。今回から若干形式に変更がありました。民間から二人、行政関係から三人、支援者でもあるファシリテーターにプラスご意見番の長谷部さんも一緒に登壇しました。
官民それぞれが今感じていることや課題、これからへの願いを語り合いました。
▼登壇者
・にじのえがお・井上さん
・こどもの心を育むネットワーク練馬・有村さん
・公立小学校の元校長K先生
・公立小特別支援教室の巡回指導教員Sさん
・公立小中学校のスクールカウンセラーKさん
・ファシリテーター/わかちあい練馬・菅原さん
・ご意見番・こまねり/ちいさなおうち代表・長谷部さん
◾️窓口が一つで伴走してくれる仕組みがあればいいのに
菅原さん:“発達支援”という言葉は、支援やサポートのイメージが強くなりがちですが、今日は「すべての子どもたちの発達」をテーマに、子どもを取り巻く環境を広く考えていく会にしたいと思います。
発達障害の子どもの増加、児童虐待件数の増加、子どもの自殺の増加、そして学校現場の多忙化。こうした背景の中で、「地域としてどう子どもを支えられるのか」。今日は学校の先生方にも登壇いただき、団体と学校の協力の可能性を探りたいと思います。
まずは登壇者の自己紹介と、それぞれが抱える課題についてお話しいただきます。
公立小学校の元校長K先生(以下K先生):私は “ちょっと変わった校長” と思われるかもしれません。官民がコラボする今回のような取り組みは、とても素晴らしいと感じています。いずれ「官」か「民」かを区別しない時代が来るはずで、今日はその出発点になればと思います。
私自身、ADHD傾向があると思いますが、それが人生を豊かにしてくれました。その経験も含め、お伝えしたいです。
自分は親から動いていないとこの人はどうしようもない、この子はマグロだから、と言われて、凄くありがたかった。やんちゃで先生から厳しいご指導をいただくこともありましたが、両親が自分のことを認めてくれていたのがありがたかったです。
なので、自分も学校の経営者として11年間、児童全てそういう発達の特性を持っているんだというポジティブな発想で教室を運営してきました。
巡回指導教員Sさん(以下Sさん):特別支援教室の巡回教員として4校を担当しています。大人数の中で活動が難しい子、気持ちのコントロールが難しい子などを、個別に取り出して学習支援しています。
担任時代はとにかく忙しく、平日は夜9時、土日も学校にいる生活でした。いまも多くの先生が余裕のない中で30人以上を見ており、特性のある子への対応に十分に時間がさけず、結果として子も先生も余裕を失ってしまうと感じています。
発達特性は“環境が整えば障害にならない”と考えています。周囲の理解と関係づくりがあれば、その子は穏やかに過ごせる。クラスが20人以下であれば先生も子どもも穏やかに過ごせるのでは、と感じています。
スクールカウンセラーKさん(以下Kさん):3校でスクールカウンセラーをしています。20年前に親子広場を立ち上げ、その後学校に入るようになりました。
発達特性を早めに見つけ、子に合った関わり方を一緒に考える。学校とも調整をして、クラスで過ごしやすくする支援を行っています。
ただ、相談が「子ども本人」からになると、家庭とつながりにくくなり、解決が難しくなることもあります。小学校のうちに保護者に伝えられると良いと感じています。
有村さん:専門家の星山先生を招き、発達支援について学ぶ場を運営しています。保育園でも働いていますが、年長になると「小学校に入るのだから」と急に厳しい指導になることに疑問を感じています。
子どもは“学校のために育てている”わけではない。小学校にも思いのある先生がおり、もっと繋がりたいと感じています。
私自身、3年前に発達障害の診断を受けました。子どもの頃の「ゆっくりさん」だった自分を思い返すと、ずっと“できない自分”を抱えて生きてきたことに気づきました。子どもたちには同じ思いをしてほしくありません。大人同士が支えあい、学びあい、ネットワークを作ることの大切さを感じています。
井上さん:子どもの発達に特性がある親として、子育ての苦労をお話ししたいと思います。
道順のこだわり、感覚過敏、食の偏りなど、生活の一つひとつに小さな壁があり、育てにくさや孤独を感じることが多くありました。
療育探し、支援センター、福祉機関との連携など、初めての子育ての中で自分が全部やらなければならず、とても負担でした。進路選択も基準がわからず不安でした。
“窓口が一つで伴走してくれる仕組みがあればいいのに”
それが切実な願いです。
■ 学校現場の取り組みと課題
Sさん:特別支援教室は以前“通級”として特定の学校に通っていましたが、今はどの学校にも設置され、アクセスがしやすくなりました。
学校には支援員、専門員、スクールカウンセラー、ふれあい相談員など多職種がいます。ただし、学校によって役割が少しずつ異なります。
担任は子ども一人ひとりについて個別指導計画を作成していますが、伝える先生・伝えない先生がいます。中学校まで引き継がれることが望ましいです。
Kさん:支援員の役割理解などはまだ発展途上で、研修も十分とは言えません。
スクールカウンセラーは週1回で、専門性を求められます。
中学校では子ども本人からの相談が増え、家庭とつながりにくくなるため、解決のハードルが上がります。
K先生:特別支援教室専門員は個別支援ではなく、コーディネートや事務が中心の役割です。個別への深い関わりは安全管理上、校長の責任範囲になります。
私は10年間、知的障害学級を担当し、その後校長として特別支援教育を学校の中核に据えた学校経営を行ってきました。
才能開発教育(スーパーエデュゲートルーム)を掲げ、すべての子の個性を伸ばす取り組みを進めてきました。
いま文科省も、発達特性への支援に大きく舵を切っており、ここ数年で予算も大幅に拡充されました。時代は大きく変わっています。
菅原さん:学校って、やっぱり敷居が高い場でもありますよね。
井上さんはお子さんに発達特性があって、同じような親御さんのネットワークにも関わっている。「学校が特性を理解してくれない」という声もよく聞く中で、井上さん自身は、学校にどう働きかけたり、協力を求めたりしているのか。実際のところを教えていただきたいです。
◾️ 子ども理解を共有する仕組みづくり
井上さん:私が勧めているのは、子どもの特性や得意・不得意を A4 1枚にまとめたポートフォリオを作ることです。内容は、子どもが好きなこと、得意なこと、苦手なこと、苦手だけれど、方法を変えればできることといった項目を整理し、学校へ渡すもの。
理解のある先生は、このポートフォリオをもとに子どもを丁寧に理解してくれます。
親にも寄り添ってくれるようになるので、まずは試してみる価値があると思っています。
ポートフォリオを通して学校と療育先が共有し共通の理解を持つことで、同じ方向を向いて支援することで子どもの成長にも繋がるので大切なことだと思います。
菅原さん:有村さんは、先ほど生活支援員の話をされていましたが、僕も学校に行って生活支援員の人と話すのですがスキルがバラバラというか。全然子どものこと知らなかったり、どんな思いでやってるんだろうみたいな人がいるんです。その問題に関して、有村さんの活動があるんだと思いますが、そこをもう少し話してもらえますか?
有村さん:私たち「こどもの心を育むネットワーク練馬」では、星山先生に講座をお願いしていますが、先生は他の自治体でも学校サポーターの育成や、市民向けの講座などを広くされている方です。
例えば八王子では、星山先生が教育委員会に関わっていた時に「学校サポーター制度」が作られ、今では600名ほどのサポーターさんが、小中学校100校以上に入っています。発達支援を学んだ方が、有償ボランティアとして活動されているそうです。
目黒区でも行政主催の無料連続講座があり、社会福祉法人が運営しているなど、発達支援の啓発として取り組みが進んでいます。他にも狛江市や逗子市、相模原市、鎌倉市など、自治体主催の研修が広がっています。
私たちとしても、学んだ方が学校で先生や子どもたちのサポートができる仕組みを作れたらと思っています。先生方は、こうした取り組みについてどう思われますか?
Sさん:私たち教員も本当は保護者と一緒にやりたいと思っているんですが、強く言われてしまうと構えてしまって、協力しづらくなることがあります。でも、一緒に取り組めた時の子どもの伸びは本当に大きいので、井上さんのように助言してもらえる形はとてもありがたいです。
それから、支援員さんは本当に人によって差があって、特性を理解して上手に関わってくれる方もいれば、やりすぎてしまって子どもの成長の機会を奪ってしまうこともあります。忙しくて十分に話し合えない時もあり、教員側が苦しくなることもあります。
今は支援員さんの数も足りていないので、練馬区にもサポートの仕組みがあると助かるなと思っています。
長谷部さん:有村さん、支援員と先生の関係がちゃんと作れる形を育成しているという感じですか?
有村さん:星山先生は、先生たちを絶対責めないでって言っています。専門的な知識をお持ちの方もいらっしゃいますが、発達のことを学ぶ機会のないまま先生をやっていらっしゃる方もいると思う、けれど、一生懸命子どもたちのためにやっているのは同じだから、先生を支えるという自覚を持ってねと言っています。
長谷部さん:そういう方が入ってくださるといいですね、なんで練馬にはないんですかね
菅原さん:校長先生、なんでないんですか?
K先生:行政よりも、まずは自分たちが目の前の子どもにどう向き合うかが大事です。今日の話を明日からの関わりに活かしてほしいです。
特別支援教育って専門性が高いけれど、シンプルに95%これだけやっていれば子どもは伸びる。「笑顔で」「褒めて褒めて褒めちぎる」この2つをやっていれば、特別支援教育の95%はできるというスタンスで教職員全てそうゆう視点で関わろうという事をやってきました。
子どもを“可哀想”ではなく“可能性のある存在”として見ることも大切です。
支援員さんや教員が否定的にならないよう、クラス配置の調整などは管理職の役割です。子どもの名前を丁寧に呼ぶ「あの子さー」ではなく、職員室でもお子さんの名前を君、さんで呼ぶ。前向きな言葉で話す——それだけで学校の空気は変わります。
彼らの発達の特性を大事に育てようという意識を全ての大人、教職員が持つということが大前提だと思います。
◾️学校と民間がつながるために
菅原さん:学校と民間が協力するには、まず先生方が民間の団体を知らないと難しいですよね。白石先生、こういった団体をご存知でしたか?
S さん:全然知りませんでした。民間にどんな団体があるか分からなくて、紹介もできませんでした。でも、不登校になった子がいて、その保護者が困っていた時、たまたまママ友の長谷部さんの記事を見ていたので、勝手に紹介したことがあります。管理職の許可が必要だったり、団体の良し悪しも判断できないので難しい面があります。
Kさん:相談室でも医療などは紹介できますが、フリースクールなどは、実際に保護者から評判を聞いたところしか伝えられないんです。名刺をもらっただけでは紹介できないので、心苦しかったです。今日のような場が本当にありがたいです。
菅原さん:事前に民間を知っていれば、子どもも保護者も居場所を作れた可能性がありますよね。
Sさん:本当にそう思います。いろんな団体とつながって、みんなで見守れたら、子どもたちはもっと生きやすいと思うんです。つながりたいですよね。
長谷部さん:でも実際はつながりにくいですよね。
Sさん:私はつながりたいのに、なんでなんだろうって思います。
菅原さん:民間の人にとって学校は入りづらいんです。個人情報の壁とか、学校の閉鎖的なイメージとか。ケース会議に行くとアウェイ感がすごい時もあります。民間から学校と連携しにくいことってありますか?
有村さん:私たちのチラシも、小学校の先生に届きにくいです。来てほしくても、先生たちはとても忙しいので…。最近は講座に来てくださる先生も少し増えましたが。
長谷部さん:あとスクールカウンセラーをもう少し増やしてください!というのは区民側かな、どこかに言ったら増やせるかもわからないですね。
Kさん:行政も考えていると思います。予算もつけているので変わっていく可能性はあります。
◾️現場の課題と未来へのヒント
菅原さん: そろそろまとめに入ります。ここまで学校・民間団体・保護者で話してきて、協力の形や課題が少し見えてきました。最後に未来に向けた話 をしたいと思います。
今の議論を踏まえて、「どうすればもっと協力しやすくなり、子どもたちの発達や成長につながるのか」という視点で、ご意見をいただければと思います。
K校長:「学校は敷居が高い」という話ですが、これからどんどん変わっていくと思います。教育委員会から小中学校の校長会にしっかり説明があって、練馬区の全校長がまず“この取り組みが始まる”というラインに立ちました。 協働推進課から学校側にも正式に連絡がいく流れができ始めた。これまでは本当に大変だったので、数年後には「学校との距離がすごく近くなったね」と実感できると思います。
校長が慎重なのは、理解がないからではなくて、新しいことを入れた時の責任を全部負うのが校長だからなんです。そこが学校の独特なところです。
ただ、予算の面では東京はすごいです。専門員や巡回指導など、ここ10年で支援スタッフはどんどん充実しています。若手教員の給与も上がり、処遇もよくなってきています。
文科省の予算もようやく動き始めてきた。現場支援の流れは確実に良くなっています。
そして、これから大きく変わるのが学習指導要領です。
発達特性のある子が「大変」なのではなく、環境調整が足りないだけ。眼鏡と同じで、必要な環境さえあれば普通に力を発揮できる。
今のように「45分座れる子が優秀」という集団教育の価値観は変わっていきます。学校外の療育利用も柔軟になるだろうし、先生たちの忙しさの原因でもある授業時数も緩和される方向で議論が進んでいます。
まとめると、これからは確実に良い方向に向かっていくということです。
要は、皆さんポジティブにいきましょうと、目の前は大変なんですが、これから明るい未来があるだろうと、目の前のお子さんに対して何かマイナスの思考をもって支援したり関わっていたら、その子は育つわけないし、保護者の方も前を向いていかなければならないので、私はお子さんもさることながら、保護者の方が未来に希望を持っていただけるように、校長として会話をしたり、面談したりするようにしていました。
菅原さん:文部科学省も踏まえて変わっていくという学校の話でしたが、それと、私たちみたいな民間団体と学校が協力してできることの話を聞けたらと思います。
Sさん:学校としては、民間と組む時に「この団体は大丈夫かな」という不安が正直あります。でも今回のように行政が間に入ってくれると、学校側も安心して紹介できるんですよね。こういう場で顔が見えたことで、「ここなら一緒にできる」と思える土台ができたと感じました。やっぱり人と人が知り合うって大事だと思います。
Kさん:私も相談室にパンフレットを置けるようになったのが嬉しいです。学校は予算だけじゃなくて、やっぱり担任の負担が大きすぎて…。子どもの人数が多いことの影響も大きいので、少しずつ学校の体制そのものを変えていく必要があると感じています。選べる場所がいくつもあることを、もっとみんなに知ってほしいですね。
有村さん:私たちとしては、今回学校の先生たちとつながれたことが大きかったです。今後も一緒に動けたら嬉しいです。
井上さん:民間としては、まず知ってもらうことが大事だと改めて感じました。こうして先生方と話せたことが本当に良かったです。
長谷部さん:学校の中で誰が何をしているか外からは分かりにくい。だからこそ、私たちも勉強して、学校の敷居を低くできるようにしていきたいと思いました。
最後にファシリテーターの菅原さんがこのように語りました。
菅原:制度やお金ももちろん大事ですが、やっぱり「そもそも私たちは何のために子どもとかかわるのか」という根っこの部分が一番大事だと思います。今、子どもも親御さんも孤立しやすい状況にあります。その中で、支える側がちゃんとモチベーションを持って関われるような仕組みをつくることが必要です。そのためにも、学校と民間が協力し合える関係を少しずつ育てていけたらと思っています。
「発達支援」というと難しく考えがちになったり、学校と家庭とバトルになってしまったりとあまりポジティブなイメージが沸きづらかったのですが、今回のトークセッションを聞いて、そんな事は、全然ないんだなぁと痛感しました。
学校現場でも家庭でも子どもを伸ばしてあげる為に何ができるかを一緒に考える。笑顔で褒めて褒めて褒めちぎって、ポジティブに明るい未来を信じてあげる事ができたらいいなぁと思いました。そして、一緒に考える為にお互いを知り合う。この協働ラボのトークセッションの原点でもある、対話を出発点として、現場どうしがつながり続けることの大切さを共有する機会となりました。
次回のトークセッションは、1/30(金)です。行政と民間とのトークセッションの集大成となるワークショップを開催します!
第5回の「子ども支援」第6回「居場所」のレポもしばしお待ちくださいね。
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